毎月いくら売れば黒字になる?損益分岐点売上の出し方を徳島の税理士が事例で解説

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「今月は黒字でしたか」とお聞きすると、多くの社長は試算表を見てから答えます。逆に「毎月いくら売れば黒字になりますか」とお聞きすると、答えが返ってこないことのほうが多くなります。前者は結果の確認、後者は基準を持っているかどうかの話で、経営の打ち手に効いてくるのは後者です。この記事では、その基準になる損益分岐点売上の出し方を、面談でよくある場面をもとに順を追って説明します。

※本記事の事例は、これまでにお受けした複数のご相談をもとに再構成したものです。特定の関与先のご相談内容をそのまま紹介したものではありません。当事務所では、ご相談の内容を、お客様の許可なく公開することはありません。

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「毎月いくら売れば黒字ですか」に即答できる社長は少ない

従業員10名ほどのサービス業を営むA社の月次面談でのことです。売上は月によって430万円から540万円まで動きます。社長は毎月の試算表に目を通しておられ、数字に弱い方ではありません。それでも「何百万円を超えたら黒字になるか」という問いには、すぐには答えが出ませんでした。

これは珍しいことではありません。試算表は終わった月の結果を映すもので、基準そのものを書いてくれるわけではないからです。基準を持っていないと、売上が落ちた月に「今月は少し悪かった」で終わってしまい、落ちた分がどこまでなら耐えられるのかが判断できません。

A社の数字を整理したところ、黒字ラインは月500万円でした。この一つの数字が決まると、月中に「今月は届きそうにない」と分かった時点で動けるようになります。

損益分岐点売上の計算の仕組みを示した図。固定費300万円を粗利率60パーセントで割ると黒字ライン500万円になることを表している

損益分岐点売上=固定費 ÷ 粗利率

計算式そのものは単純です。

損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 粗利率

A社は月の固定費が300万円、粗利率が60パーセントでした。

300万円 ÷ 0.6(粗利率60パーセント) = 500万円

これが黒字ラインです。500万円売れば粗利が300万円残り、固定費とちょうど同じになります。

なお、ここでいう黒字は営業利益ではなく、支払利息まで引いた経常利益の段階です。理由は次の章で説明します。

考え方は、売上が1円増えるごとに手元に残る割合(粗利率)で、毎月必ず出ていく金額(固定費)を割り戻す、というものです。難しいのは式ではなく、固定費と粗利率にどの数字を入れるかのほうです。

ここで、粗利という言葉について先に整理しておきます。粗利は日常的によく使われる言葉ですが、制度会計上の用語ではありません。試算表や決算書を開いても「粗利」という行はどこにもなく、そこに書かれているのは売上総利益です。売上高から売上原価を引いた金額で、粗利とほぼ同じものだと考えてください。

この記事でいう粗利率は、次の式で計算したものを指します。

粗利率 = 売上総利益 ÷ 売上高

自社の数字を当てはめるときは、試算表の売上総利益の行を探してください。そこが出発点になります。

自社の固定費を拾う

固定費は、月次試算表の販売費及び一般管理費を中心に拾います。柱になるのは次のあたりです。

  • 人件費(役員報酬、給料、アルバイト代、社会保険料の会社負担分)
  • 地代家賃
  • リース料
  • 保険料
  • 減価償却費
  • 水道光熱費や通信費など、金額がほぼ一定のもの
  • 借入金の支払利息

多くの会社では、このうち人件費が固定費の半分前後を占めます。役員報酬は事業年度の途中で原則として金額を変えられませんし、給料も急に下げられるものではありません。社会保険料の会社負担分は給料に連動して発生しますから、あわせて固定費として見ます。役員報酬の水準そのものについては『役員報酬はいくらにすればいい?決め方の手順を徳島の税理士が事例で解説』で詳しく書いています。

アルバイト代については、繁閑にあわせてシフトを増減させている会社では変動費に近い性質を持ちます。ただし人を集めるにも辞めてもらうにも時間がかかりますから、実務上は固定費に入れて計算しておくほうが安全です。

一覧の最後に挙げた支払利息は、販管費ではなく営業外費用です。それでも固定費に加えてください。毎月ほぼ一定額で発生し、売上がゼロでも避けられない費用だからです。ここを外して計算すると、営業利益はゼロなのに経常段階では赤字、という売上高を「黒字ライン」と呼んでしまうことになります。「いくら売れば黒字になるか」に答えるなら、会社全体で赤字にならないラインを出すべきです。なお返済が進めば利息は少しずつ減っていきますが、期中は一定とみて差し支えありません。A社の固定費300万円にも、支払利息2万円が含まれています。

もう一つ判断が要るのが、販管費の中に売上に連動して増える費用が混じっている場合です。外注費、販売手数料、荷造運賃などがこれにあたります。区分が販管費であっても、売上が伸びれば増える性質のものは変動費側に寄せてください。

注意していただきたいのは、固定費から抜いて終わりではない、という点です。抜いた費用は変動費になりますから、粗利率のほうも計算し直す必要があります。

調整後の粗利率 =(売上総利益 − 販管費のうち売上に連動する費用) ÷ 売上高

たとえば、月の売上600万円、売上総利益360万円(粗利率60パーセント)、販管費305万円の会社で、販管費305万円のうち30万円が売上に連動する販売手数料だったとします。

  • 調整せずに計算:305万円 ÷ 0.6(粗利率60パーセント) ≒ 508万円
  • 調整して計算:固定費は305万円 − 30万円 = 275万円。粗利率は(360万円 − 30万円)÷ 600万円 = 0.55(55パーセント)。275万円 ÷ 0.55(調整後の粗利率55パーセント) = 500万円

差は8万円です。金額としては小さく見えますが、問題はずれる方向が一定でないことにあります。いまの売上が黒字ラインより上にあるときは黒字ラインを高く見積もり、下にあるときは低く見積もる。低く見積もるほうが危険です。売上に連動する費用が販管費に多く入っている業種では、固定費と粗利率の両方を必ず調整してください。

なお、A社にはこうした費用がなかったため、試算表の売上総利益をそのまま使って粗利率60パーセントとしています。

また、製造業や建設業では、固定費は販管費の中だけにあるとは限りません。製造原価に含まれる人件費や減価償却費のうち、生産量に関係なく発生する部分も固定費です。自社の原価の中身がどうなっているかは、一度確認しておいてください。

減価償却費も固定費ですが、現金が出ていかない費用です。この性質が後の章で効いてきます。

粗利率はどの数字を使うか

試算表の売上総利益の行を見れば、その月の粗利率は計算できます。ただし、その数字をそのまま基準に使えるかどうかは、棚卸をどれくらいの頻度でしているかで決まります。在庫をほとんど持たない業種であれば、月次試算表の粗利率をそのまま使って構いません。問題になるのは、在庫を持つ商売です。

棚卸をしていない月の粗利率は、実態とずれます。仕入が多かった月は粗利率が低く出て、少なかった月は高く出る。売れた量ではなく仕入の波を見ているだけの数字になってしまいます。

一番いいのは、毎月棚卸をすることです。手間はかかりますが、月次の利益が毎月正しく出ます。損益分岐点の精度が上がるだけでなく、決算の着地予測も、銀行に月次を見せたときの説得力も変わってきます。月次で経営判断をするつもりなら、棚卸はその土台にあたる作業です。

毎月が難しければ、3か月に1度、少なくとも半年に1度は実施してください。そのタイミングで粗利率を把握し、次の期間はその数字を使います。四半期ごとに見ていれば、仕入値の変化や取扱商品の入れ替わりにも追いつけます。

それも難しい場合は、社長と、顧問税理士がいればその税理士との間で、過去の決算書やこれまでの棚卸の実績をもとに「理論上の粗利率」を何パーセントと決めておく方法があります。期中はその数字を使い、決算のときに実際の粗利率とどれだけずれたかを確認する。ずれが大きければ、翌期に使う数字を見直します。

大事なのは、決めた数字を期中は動かさずに使うことです。月ごとにぶれる数字を追いかけるより、少し粗くても一貫した基準を持っているほうが、はるかに判断に使えます。A社も、前期の決算書の売上高と売上総利益、それに過去の棚卸の実績から、理論上の粗利率を60パーセントと決めて使っていました。

ただし、次のような場合は、決めた数字も過去の平均も使えません。

  • 主力商品や主な取引先が入れ替わった
  • 値上げをした、あるいは大口の値引きに応じた
  • 外注比率を大きく変えた

こうしたときは、変わった後の数か月だけで計算し直します。基準の数字は一度決めたら固定するものではなく、商売の中身が変わったら作り直すものだとお考えください。

季節で売上が動く業種は、月単位で見ない

A社は夏に売上が落ちる商売でした。閑散月の売上は430万円です。黒字ライン500万円に対して70万円足りません。粗利(売上総利益)で見ると次のようになります。

430万円 × 0.6(粗利率60パーセント) = 258万円

固定費300万円との差は42万円。この月は42万円の赤字です。

では、この月に慌てて経費を削るべきかというと、そうとは限りません。A社は繁忙期には540万円まで売上が伸びます。年間の売上は6,100万円でした。年間の固定費は3,600万円ですから、年間の損益分岐点売上は次のとおりです。

3,600万円 ÷ 0.6(粗利率60パーセント) = 6,000万円

100万円だけ上回っており、年間では黒字です。

季節変動のある商売では、月ごとの黒字赤字に一喜一憂しても打ち手につながりません。見るべきは、年間の損益分岐点を超えられるかどうかと、その進捗です。

ここで注意していただきたいのが、進捗の置き方です。年間6,000万円を12で割って毎月500万円、四半期で1,500万円と均等に置いてしまうと、月単位で見るのをやめた意味がなくなります。使うのは前年の月別売上の構成比です。季節の波を織り込んだうえで累計の目安を作ってください。繁忙期を含む半年で3,300万円、閑散期を含む半年で2,700万円、といった置き方になります。累計がこの目安を下回ったときが、手を打つタイミングです。

ただし、損益と資金は別です。年間で黒字でも、閑散月に資金が足りなくなれば止まります。年間で損益を見て、月ごとに資金を見る。この二本立てにしてください。

月別の売上と黒字ラインを比べたグラフ。閑散月は黒字ラインを下回り、補助金が計上された月は本業が赤字でも試算表上は黒字になることを示している

補助金や一時的な収入で黒字になった月の読み方

A社の閑散月には、もう一つ事情がありました。補助金50万円が雑収入として計上されていたのです。42万円の赤字に対して雑収入が50万円ですから、経常利益は8万円の黒字。試算表の一番下だけを見れば、黒字の月です。

しかしこの月の本業は42万円の赤字でした。補助金は来年も同じように入ってくるものではありません。損益分岐点の計算に補助金や助成金を含めてしまうと、黒字ラインが実態より低く見えます。計算に入れるのは、本業で繰り返し発生する売上と費用だけにしてください。

なお、補助金には原則として税金がかかります。受け取った金額がそのまま手元に残るわけではない点は、『補助金をもらったら税金がかかる?圧縮記帳の仕組みを徳島の税理士が事例で解説』にまとめています。

借入の元本返済は損益分岐点に入っていない

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。

損益分岐点売上は、会計上の赤字にならないラインです。借入金の元本返済は経費ではないため、この計算のどこにも入っていません。つまり、黒字ラインちょうどで着地しても、元本返済に充てる現金は別に用意しなければなりません。

返済にあてられる原資は、税引後の利益に減価償却費を足したものです。減価償却費は費用として利益を減らしていますが、現金は出ていかないためです。ですから黒字ラインちょうどの月でも、減価償却費の分の現金は残っています。それで返済額に足りなければ、足りない分だけ預金が減っていきます。

A社で計算してみます。元本返済が月12万円、減価償却費が月3万円。実効税率は30パーセントとします(実際の税率は所得の水準で変わります)。

  • 返済に必要な原資:12万円
  • 減価償却費で賄える分:3万円
  • 残りを税引後利益で賄う:12万円 − 3万円 = 9万円
  • そのために必要な税引前利益:9万円 ÷ 0.7(1 − 税率30パーセント) ≒ 13万円
  • 必要な売上:(固定費300万円 + 利益13万円) ÷ 0.6(粗利率60パーセント) ≒ 522万円

黒字ラインは500万円、返済まで賄えるラインは522万円。差は月22万円、年間では264万円です。

この22万円を知らないまま「今月は黒字だった」と安心していると、預金残高だけが少しずつ減っていきます。決算書は黒字なのに資金繰りが苦しい。その大きな原因の一つがこれです。ほかにも、売掛金が増えた、在庫が増えた、設備投資をした、税金を納めた、といったときにも利益と現金は離れます。いずれも共通しているのは、損益計算書には出てこない現金の動きだという点です。

黒字ラインと返済まで賄えるラインは、必ず2つとも出しておいてください。

損益分岐点が下がらないとき、先に触るのはどこか

黒字ラインを下げる方法は、固定費を減らすか、粗利率を上げるかの二つしかありません。順番としては、粗利率のほうから検討することをおすすめします。

A社で粗利率を60パーセントから62パーセントに上げられたとすると、黒字ラインは次のようになります。

300万円 ÷ 0.62(粗利率62パーセント) ≒ 484万円

月16万円分、売上のハードルが下がる計算です。同じ効果を固定費の削減で出そうとすると、月10万円弱の経費を削ることになります。値決めや仕入条件の見直しのほうが、痛みが少なく効く場面は少なくありません。

固定費を見直す場合は、成果と結びついていないものから確認します。使っていないリース、内容を把握しないまま続いている保険、増え続けているサブスクリプション。人件費は最後に置いてください。減らせば固定費は下がりますが、粗利を生む力そのものが落ちるためです。

なお、期末が近づいてからでは打てる手が限られます。時期ごとに何ができるかは『決算対策はいつから始める?決算日を過ぎるとできなくなることを徳島の税理士が解説』にまとめています。

よくある質問

Q. 粗利率と売上総利益率は同じものですか。

A. ほぼ同じものだとお考えください。粗利は日常的に使われる言葉で、制度会計上の名称が売上総利益です。試算表や決算書には「売上総利益」と書かれており、これを売上高で割ったものが売上総利益率、いわゆる粗利率です。なお理論上、損益分岐点の計算で使うべきは、売上に連動して増減する費用だけを差し引いた限界利益率です。売上原価の中身がおおむね変動費に対応している業種であれば、粗利率で代用して差し支えありません。ずれが出やすいのは、外注費や販売手数料が売上原価ではなく販管費に入っている業種です。その場合の調整のしかたは、固定費を拾う章で説明しています。

Q. 損益分岐点は月ごとに出すべきですか、年ごとに出すべきですか。

A. 両方持ってください。年間のものは目標の管理に、月ごとのものは期中の判断に使います。季節変動が大きい商売ほど、年間のほうを主に見ることになります。

Q. 人件費は固定費に入れるのですか。

A. 入れます。役員報酬は事業年度の途中では原則として金額を変えられず、給料やアルバイト代も急には減らせないためです。社会保険料の会社負担分も人件費とあわせて固定費として見ます。なお人件費を減らせば黒字ラインは下がりますが、粗利を生む力も同時に落ちますので、最後に検討する項目だとお考えください。

Q. 黒字ラインを下回った月は、すぐに何か手を打たないといけませんか。

A. 単月で判断する必要はありません。季節要因で説明がつくのか、それとも説明のつかない落ち方なのかを見てください。判断の材料になるのは、前年同月との比較と、年間の損益分岐点に対する累計の進捗です。

まとめ

  • 損益分岐点売上は、固定費を粗利率(売上総利益 ÷ 売上高)で割って出す
  • 固定費の柱は人件費(役員報酬、給料、アルバイト代、社会保険料の会社負担分)。支払利息のように毎月ほぼ一定額で発生する営業外費用も加える。売上に連動する費用は区分にかかわらず変動費側に寄せ、そのぶん粗利率も計算し直す
  • 粗利率は棚卸の頻度で精度が決まる。毎月が理想、難しければ四半期か半年に1度。それも難しければ理論上の粗利率を決めて期中は動かさない
  • 季節変動のある商売は、年間の損益分岐点と、前年の構成比で置いた累計の進捗で判断する
  • 補助金など一時的な収入は計算に入れない
  • 黒字ラインとは別に、借入の元本返済まで賄えるラインを出しておく

自社の黒字ラインがいくらなのか、返済まで賄うにはあといくら必要なのか。決算書と試算表があれば、その場で計算できます。当事務所では月次の関与の中でこの2つの数字を毎期出し直し、期の途中で着地を読みながらご相談に応じています。数字の作り方から一緒に整理したいという方は、お気軽にご相談ください。


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執筆者:逢坂剛(税理士・中小企業診断士)/逢坂剛税理士事務所(徳島市中前川町)

この記事を書いた人

逢坂剛税理士事務所 所長。税理士・中小企業診断士。2014年徳島市で開業。会社設立・創業支援から税務顧問、経営コンサルティングまで、税務と経営の両面からサポートしています。社会保険労務士も在籍しており、従業員の雇用に関するご相談もワンストップで対応可能です。

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